なぜ、今、日本でDXが議論されるのか 〜 注44

公開: 2021年5月2日

更新: 2021年5月29日

注44. 生活給

終身雇用を前提とした日本の社会では、労働者の給与は年功序列に基づいて決定される。労働者がどのような仕事・作業に従事しているかとは、別の見方が採られている。つまり、同じ年に入社した同期の社員達には、ほぼ同じくらいの給与が与えられるのである。この年齢給を決定するために、日本社会では、社員達の年齢と、社員達の生活を維持するために必要となる出費額に比例した給与額を支払うようにした。

このことは、年齢が若い、経験年数の短い社員の場合には、同じ仕事に従事していたとしても、年齢の高い社員ほどの給与は支払われないことを意味している。つまり、給与額は仕事の内容によって決められているわけではない。人間の平均的なライフ・コースを想定すると、男性社員の多くは、20代の後半で結婚をし、家庭を持つ、そして30代の半ばまでに、2人ないし3人の子供の親となる。40代になるとその子供たちが学齢期になり、学費の負担も重くなる。

男性社員が50代になると、子供の何人かは大学へ進学して、親の負担はピークに達する。その後、55歳を過ぎた頃から、子供達は独り立ちしてゆき、親としての経済的な負担は、徐々に軽くなってゆく。そして、定年を迎えることになる。このライフ・コースに必要な生活費から、概ねどの程度の給与が必要なのかは推定できる。その推定額を基礎に、勤続年数と給与との関係を表にまとめて、賃金表を作成するのが、「生活給」方式である。

この生活給方式は、終身雇用制によく適合しており、これまでの日本社会ではよく機能するやり方であった。しかし、経済がグローバル化したため、海外から日本企業に入社する人々が増えるに従って、そのやり方の不都合な面が明らかになってきている。また、終身雇用で、人材を社内で育成する社会であれば問題はないが、他社で経験を積んできた人材を活用しようとすると、不都合である。このため、現代の日本社会では、「能力給」と呼ぶ、中間的なやり方に移行している企業も少なくない。

ただ、能力給方式では、労働者が達成した成果をどう評価するのかが問題となるため、従来型の生活給から、新しい能力給への移行は、容易ではない。

参考になる読み物

日本の雇用と労働法、濱口桂一郎、日経文庫、2011